こんにちは、

松山友佳子です。

コロナ以降、人々のライフスタイルも大きく変わり、

1人暮らしの独身者で、孤独を感じた人も多かったでしょう。緊急事態宣言期間中の4月末に、入会面談にやってきた野口さん(仮名、33歳)も、猛烈に孤独を感じた1人でした。

「結婚はいつかできたらいいと、漠然と思っていました。でも、コロナで会社がテレワークになって、実家に帰ることもできずに1人で部屋の中にいたら、メチャクチャ寂しくなったんです。こんなときにパートナーが側にいたらいいなと思いました。婚活をして、結婚したいです」

ただこのとき、心配も口にしていました。

「大学が理系で周りは男性ばかり。その後、専門知識を深めたくて専門学校にも行きましたが、そこも男社会でした。会社にも女性がほとんどいない。これまでの恋愛経験がゼロなんです。こんな僕でも大丈夫でしょうか?」

学歴を聞くと、誰もが知っている有名な私立大学を卒業していて。勉強は人一倍してきたのですが恋愛には疎遠という、典型的な理系男子でした。

恋愛経験がないままに歳を重ねてしまったという人に、私はいつもこんな恋愛キャッチアップの方法を説明しています。

「お見合いをしながら恋愛経験を積んでいきましょう。こう考えてみてください。例えば大学生で恋愛デビューをしたとします。今、野口さんは33歳だから、15年間の恋愛空白期間がありますよね。もしも普通に生活をしていたら、15年間で、何人の女性と恋愛できたと思いますか? せいぜい5、6人、もしかしたら、もっと少ないかもしれない。その中で、結婚を真剣に考えた人は、せいぜい1人か2人じゃないかしら。

でも、婚活というのは、“結婚したい”と思っている女性と出会っていくんです。野口さんの年齢と持ち合わせている条件ならば、月に4人から5人はお見合いできると思います。失われた15年は、あっという間に取り戻せますよ」

私の話を頷きながら聞いていた野口さんが、言いました。

「なるほど、そう考えればいいんですね」

こうして、彼の婚活がスタートしました。

最初の月は4つのお見合いを組みました。そこから2人と交際に入ったのですが、1人は初めてのデートを終えた後に、交際終了がきました。もう1人は、2度の食事の後に交際終了がきました。

2人から断られた後に、野口さんは大きなため息をついて言いました。

「婚活って大変ですね。デートの場所を決めたり、店を予約したりするのもひと苦労だし、実際会っているときは話す話題を見つけないといけないし。女性と付き合うってエネルギーが必要なんですね。想像していたよりも、ずっと気疲れします」

そこで私は言いました。

「歳を重ねてしまうと、何でも頭で考えがちだけれど、行動を起こす気持ちを大事にしましょうね。人に興味を持つ感情を動かすようにしましょう。失敗したらヘコむし、傷付いたりもするけれど、何事も慣れだし、失敗から学ぶこともあると思って、どんどんいきましょう」

私の言葉にまた活動を再開し、その後も苦戦続きだったのだが、3つ下の智子さん(仮名)と交際に入ってからは、手応えを感じていたようでした。

野口さんが女性をリードできるのか、いささか心配でしたが、恋愛初心者同士、手探りで関係を築いていくのもいいでしょうにと、私は思っていました。

しかし、そこから1カ月後に、智子さんから交際終了がきました。彼女の仲人は、電話口で残念そうに言っていました。

「別に野口さんが嫌というのではなく、『結婚を現実のこととして捉えたときに、自分は人と一緒に生活していく自信がない。もう婚活はやめて退会します』と言うの」

それをそのまま野口さんに告げました。

「そうですか」

野口さんは野口さんで、淡々としていました。

私は、「終わったものには執着せずに、“ハイ、次!”の精神で前に向かうことが婚活には大事ですよ」と励ましたのですが、そこから数日後、「面談をしたいです」と、野口さんは連絡を入れてきました。

面談ルームにやってくると、言い初めました。

僕の元々の性格なんです。学生時代もやるべきことは淡々とできるんだけれど、それをもっと早くとか、もっと素晴らしくとか、そういう前向きなエネルギーが、僕には欠けていて」

「結婚はしたいんですよ。ただ、婚活をしていくガソリンが、そもそも僕は人よりも少ない。このまま続けていて、大丈夫なのかなって。気もするし」

まるで負のループに巻き込まれているようでした。

お見合い結婚は、それまで見も知らぬ男女が出会い、お互いのことを知って結婚へというゴールに向かっていく。出会った2人が急速に関係を深めていくためには、エネルギーが必要となる。野口さんが言うところの婚活するためのガソリンが体に満タンに入っていないと、なかなか前には進めない。

また、そのガソリンを貯蓄できる量は、人によって違うのでしょう。人と対峙したときに、緊張する度合いも、性格によってまちまち。人と話すことに緊張しない人もいれば、人前に出ると極度に緊張する人もいる。

私は、野口さんに改めて聞いてみました。

「結婚はしたいの?」

「そうですね。結婚はしたいです」

「じゃあ、無理をせずに、自分に負担にならない範囲で婚活をしましょうか。前に進むガソリンがないから走れない。でも、止まってしまったら、できない自分を責めてしまうことになる。ならば低速でいいから、できる範囲でお見合いをしていきましょう。そして、“ここぞ”という人が現れたら、そのときは少し無理してでもギアを入れて、エネルギーを出していくようにしましょうよ」

現代社会では、結婚するかしないかは個人が選択していい時代です。

結婚がしたい。そこにエネルギーを出せる人は、婚活に全力を尽くせばいい。結婚はしたい。でも、前に進むエネルギーが思っていた以上に自分には少なかったと気づいた野口さんのような人は、低空飛行でいいから、止まらずに婚活を続けていけばいい。そして、結婚に興味がない人は、結婚しない人生を選択し、自分らしく生きればいい。

2020年~2021年は、生活スタイルがガラリと変わり、迷いの多い年だと誰もが感じているでしょう。でも、こんなときだからこそ、自分を見失わず自分の心地よい生き方を見つけていけばいいのです。

そして、仲人である私は、“結婚したい”と希望を持っている人たちがいましたら、その人にあった寄り添い方を見つけ、支えになろうと改めて思いました。

――松山友佳子

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