こんにちは、

松山友佳子です。

 

最近では、気軽に利用している人も多い婚活アプリ。便利な一方で、とんでもない相手と「出会って」しまった女性もいます。

 

婚活アプリで幸せな結婚をしている人たちもいるのですが、気軽さがトラブルを招くこともある。登録にあたりチェック機能が設けられてはいるものの、それをくぐり抜けて既婚者が登録したり、プロフィールを偽ったり、宝石やマンションなどを買わせるデート商法がはびこったり、高額保険の勧誘が横行したりしているのも、また事実です。

 

紫穂(仮名)さんが“結婚詐欺に遭った”という婚活アプリも、大手が運営する会員数500万人を誇る有名なアプリだった。

 

今回は、紫穂さんが遭った結婚詐欺の顚末を記します。

 

婚活アプリでマッチングした相手、祐司(仮名)さんと実際に会ったのは、一昨年の10月のことだった。

 

自分よりも3つ下の34歳。差し出してきた名刺を見ると、誰もが知る有名企業に勤めていた。祐司さんの両親はすでに他界していたが、亡くなる直前に母親から、「結婚してほしかった。孫の顔が見たかった」と言われたのが心残りだったという。

 

「だから結婚できる女性を真剣に見つけたいと思って、婚活アプリに登録したんです」。祐司さんは真剣な表情で言った。

 

37歳の紫穂さんもまったく同じ気持ちだった。出産することを視野に入れたら、一刻も早く結婚がしたい。3回目のデートで、「結婚を前提にお付き合いしてください」と言われ、そこからは、結婚に向けての具体的な話がスルスルと進んでいった。

 

交際がスタートして3カ月が経った年末のこと、祐司さんが紫穂さんの家にあいさつにやってきた。テーブルを挟み、両親を前に神妙な面持ちで言った。

 

「紫穂さんとは、結婚を考えて真剣にお付き合いさせていただいています」

 

「娘のことをよろしくお願いします」

 

父も母も深々と頭を下げた。

 

年が明けてお正月。毎年恒例の親戚一同が集まる場があり、紫穂さんはそこに祐司さんを連れていった。

 

「ほう、紫穂ちゃんの婚約者か」

「いい人そうで、よかったねぇ」

「幸せになるんだよ」

 

親戚の人たちみんながお祝いしてくれたのが、うれしかった。

 

「和装も写真だけは撮ろう」ということになり、写真館で紫穂さんは打掛け、祐司さんは紋付姿の写真を撮った。写真撮影には10万円かかった。

 

結婚指輪も買いに行った。裏側に名前を彫りサイズ直しをしてもらうには10日ほど時間がかかるというので、内金3万円を入れた。

 

これらのおカネは、すべて紫穂さんがカードで払った。

 

なぜだか祐司さんの近親者に会えない日々が続いたのです。

結婚に向けて準備が着々と進んでいく中で、気にかかることもあった。紫穂さんは、両親、親戚、仲のいい友達に祐司さんを会わせているのだが、祐司さんの近親者には誰ひとりとして会っていない。

 

お正月に初めて祐司さんの家を訪れたときも、一緒に住んでいるという妹は、「彼氏の家に行っている」といって不在だった。

 

「この間、妹さんにお会いできなかったから、近いうちに会いたいな。あと、親戚の人にも会わせてもらえないかな。私の親が、『親御さんが亡くなっているなら、親代わりになる親戚の人を交えて両家のあいさつを正式にしたい』って言ってるの」

 

「わかった。考えておくよ。そうだ、今週末は、親父とおふくろの墓参りに行くか?」

 

その週末、祐司さんの父母の墓参りに行った。「紫穂です。今度、祐司さんのお嫁さんになります。祐司さんをずっと大切にしていきます。よろしくお願いします」。心の中でこう言って、手を合わせた。ここまではまだ、結婚への道は順調だと思われた。

 

しかし、事態は急変した。2月に入って間もなくのこと、祐司さんからLINEが来た。「紫穂、ごめん。3月末まで仕事が立て込んでしまったから、3月末の挙式を5月に延期したいんだけれど」驚いて、すぐに電話をした。

 

「メール読んだけど、そんな勝手なことを今になって言わないでよ」

「仕事なんだから、しかたがないだろ」

「結婚式は私たちだけの問題じゃないよ。こっちは両親も親戚もそのつもりで、みんなそこを予定してスケジュールを空けてたんだから」

 

「急に決まった仕事なんだよ」

「会社には3月の末に結婚式をするって言ってなかったの?」

「はあ?」

「祐ちゃんのせいで、みんなに迷惑かかるんだよっ!」

 

こう言ったとたん、祐司さんはドスのきいた声でまくしたてた。「俺たちの結婚だろうがっ! 親だの親戚だの関係ないだろ!! お前はそういう性格してるから、その年になっても結婚できねぇんだよ。延期といったら延期なんだよ」。

 

一方的に電話を切られた。祐司さんがこんなふうにキレたのは、初めてのことだった。怖くて体が震えた。

 

ある夜、電話で祐司さんと言い合いをしていると、母親が紫穂さんの部屋に入ってきて「お母さんに電話を代わって」とスマホを取り上げた。

 

「祐司さん、紫穂の母です。紫穂にも至らないところはたくさんあると思うんですよ。ここのところずっともめているみたいですね。これから結婚をどうするか、ちゃんと話し合いをしませんか?」

 

その週末、祐司さんが菓子折りを持って、紫穂さんの家にやってきた。父と母を目の前に正座をし、言った。「自分も短気なところがあるんで、紫穂さんを悲しませるようなことをしてすいませんでした。ちゃんと結婚をするんで安心してください」。

 

結局、3月末に開催される予定だった結婚式は、5月の末に延期された。

 

この調子だと、もうさすがに結婚は無理だと思った。その夜、祐司さんにLINEを入れた。

 

「これからのこと、キチンと話したい」

「結婚を辞めたいんだろ? 辞めてやるよ」

 

「そういう言い方ってある? とにかく会って話をしようよ。これまで私が立て替えてきたおカネの清算もしたいし」

 

そのメッセージへの返信はなく、再びLINEをいれようとしたら、アカウントがブロックされたのか、いつまで経っても既読にはならなかった。

 

両親に事の経緯を話した。「親戚にもお披露目してしまったから、ここで結婚を辞めたことを伝えるのは気恥ずかしいが、あの男と結婚しても紫穂は幸せにはなれないだろう」というのが父の見解だった。確かにそのとおりだ。

 

そして、冷静になって考えてみると腑に落ちないところがたくさんあった。

 

これは結婚詐欺ではないだろうか? そこで知人に、結婚詐欺の裁判を視野に入れて弁護士を紹介してもらうと、「ちょっと調べてみます」と受任してくれた。

 

2週間ほどのち、弁護士から連絡があった。そこで語られたのは驚愕の事実の数々だった。

 

「教えてもらった住所で、住民票を取り寄せました。それがこれなんですが」。弁護士が住民票を見せてくれた。

 

「相手は34歳と言っていたようですが、生年月日から計算すると54歳ですね」

 

「えええーっ、ご、54!?」

 

「松原理穂さんという方は、ご存じですか?」

 

「知りません。あ、でも、私、紫穂なのに、理穂って、しょっちゅう呼び間違えられていて、1度それでけんかになったことがあるんです。それは誰ですか?」

 

「ここでは、妻になっていますね」

 

「つ、妻ぁ〜????」

 

「今戸籍謄本も取り寄せているので、それが来たらもっといろいろとわかっていくと思います」

 

それから何日が後に、

向こうの弁護士さんが、『原告側の言い分をすべて認めて謝罪する。解決金150万円を現金一括で払うので、もう終わらせたい』と言ってきたんです。

 

私の弁護士さんは、『150万円は解決金としては妥当な金額』だとおっしゃるし、何より私はこれまでしてきた事実を認めて謝ってくれたらよかったので、そこで終わりにしました」

 

私は、すべてを包み隠さず話してくれた紫穂さんに言いました。

 

「紫穂さん、私はね、『結婚詐欺に遭いました。それでも私は結婚がしたいんです』といういただいたメールの一文が、心に刺さったんですよ。

 

婚活をしていて失恋をしたり、それこそだまされたりすると、自分を悲劇のヒロインにしてしまう。つらさを乗り越えるよりも、相手を恨んだり、不運を呪ったりして、後ろを向いてしまう人が多い。そんな中で前を向いて歩き出そうとしている紫穂さんはすばらしいと思ったの」

 

「ありがとうございます」

 

起こってしまった過去を変えることはできない。しかし、未来を幸せにするかどうかは、今の自分の行動にかかっている。

 

幸せを手にいれた時、つらかった過去への思いが変わる。過去の景色が違って見える。「あのつらい経験があったからこそ、この幸せがある」そう思うことができるのです。

 

「婚活がうまくいかない」と思っている人たちは、ぜひあきらめないでほしい。前に進み結婚を決めて、過去のつらさや失敗続きだった婚活を思い切り笑い飛ばしてほしい。

 

ファイト!!

 

――松山友佳子